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『最後の将軍―徳川慶喜』(司馬遼太郎・著)読了

 『最後の将軍―徳川慶喜』。

 司馬遼小説の代表作で、『竜馬がゆく』や『燃えよ剣』とならんで幕末を描いた有名な作品ということは知っていたのですが、文庫本一冊、300ページに満たない薄い本だとは思いませんでした。

 しかし読んでみると内容は重厚で、とてもおもしろい。幕末の動乱の時期。佐幕や倒幕、攘夷や開国といった強烈なエネルギーが凝縮された時代に、政治の情勢はとても不安定で、時勢はどうなっていくかわからない。そんな状況にあって、政治治感覚にとても機微な慶喜は、さまざまな悩みや葛藤の末「大政奉還」という前代未聞の決断を下す。この本ではそれまでのいきさつや、徳川慶喜という人間像が実にいきいきと描写されています。
 ぼくは今まで、あの時代にどうして幕府は倒れてしまったのか、いまいちわかりませんでした。

“天領400万石、旗本8万騎……”

 とうたわれるように、直轄地だけでも薩摩・長州・土佐・肥前が束になってかかってもかなわないような豊かな領地を持ち、さらには御三家や御一門といった親藩や、おおくの譜代大名までいる。軍隊にしても、洋式に訓練された陸軍数万に、軍艦十数隻からなる当時日本最強の海軍をもつ。なので、

──どう考えても、戦争で負けることはないはず

 と考えていました。

 たしかに桂小五郎や西郷吉之助、大久保一蔵に匹敵する人材がいないにしても、幕府にも勝海舟や小栗上野介といった俊才は多くいる。またたとえ長州征伐に失敗したといっても、幕府にとってはアウェーで一敗しただけで、大阪城で籠城するとか、東征する新政府軍をどこかで待ち伏せするとか、戦術的に残された選択肢は少なくはないし、やりようはあったはず。

 それなのになぜ幕府は倒されてしまったのか……。

 すべては、水戸家に生まれ、政治感覚が鋭すぎる徳川慶喜という人が将軍になったからなんだと読んでわかりました。

 水戸家は将軍の親戚でありながら、将軍家よりも天皇を崇拝するという思想をもつ特殊な家です。また独自の歴史観があり、“足利尊氏は賊軍”という考え方が水戸家にはありました。そんな水戸家に生まれた慶喜にとって、自分が朝敵として後生の歴史に名を残すことは、何が何でも避けなければいけない。時代の流れを読むことに長け、英明な将軍であればこその歴史的な判断が、「大政奉還」であったんだと気づかされました。

 もちろん評価は、★★★★★です。

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